ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「でも普段は君に群がる女の子が沢山いるでしょ。」
「はい、5歳~10歳の女の子とそのお母さんにはそれなりにモテてます。」
「え?それはロリコンなの?熟女好きなの?どっち?」
「心外だなあ。俺、こう見えて自宅で子供向けのピアノ教室やってるんです。」
「ええ!すごいね!」
「バイトですよバイト。お金を稼ぐために唯一の特技を惜しげもなく活用してるんです。」
彼は亡くなったおじいさんの家でピアノ教室を開いていて、週1回、月謝5000円でバイトをしているのだとか。
彼のピアノも、彼の言葉も、なんかいい。
疲れた身体と心に沁みわたる。ユンケルよりも効能がいいと思う頃には、自然と呟いていた。
「…私も、習いたいかも。」
「え?」
「私もピアノ、習いたい。何か趣味がほしいなって思ってたとこだし。」
「···大人のピアノ教室なら、確か駅前にありましたよね?」
「私は君に教えて欲しいって言ってるの。」
あ、さすがに初対面で警戒してる。私もなにいきなり習いたいとか言っちゃってるのか、保険を売るおばさん商法に近いじゃん。
「…でも俺、大人は教えたことはないので。。」
これは推せばいける!圧せば。圧とおばさん逆商法を展開。
「じゃあ月に1万払う!」
最低な31歳バツイチ。
一瞬うつむいて、またすぐに私を見たピアノくん。
「…YES、と即答すれば、俺が金にがめつい男だと思いますか?」
「思わない。けど少し思うかも。」
「じゃあYESで。でも少し大人って狡いなって思いました。」
「ふふ。」
良かった。
"大人って汚い"って言われなくて。
それが不死原君との出会いでもあり、ピアノを教わることになったきっかけでもあった。