ゆれて、ふれて、甘言を弄して
ちら、と不死原君の顔を見れば、爽やかスマイルを携えた王子がいて。
あからさまに目を泳がせる私。
おろおろしながらも、やっぱり未練たらたらで、はらはらと私の目が彼の膝に不時着する。
白パンほどチャラくもない、ゆるパンほど個性をアピールしているわけでもないネイビースラックスが、今日も梨添りいほ31歳のストライクゾーンをいく。
今度は彼の膝に乗せたままの人差し指が、トントンっと叩くように何かを合図して。
そしてまた『赤鼻』を弾き始める彼。
…これだけで何を意味するのか分かってしまう自分がイヤだ。
でもいい。いいなあ。このタイミングでのそれ。
やっぱり不死原君のふざけたセンスはたまらない。私の使い古した心の溝に、すっぽりと収まりにくる。
彼がピアノを演奏中、人差し指で軽く鍵盤を叩く時、それは"一緒に弾いて"を意味する。
今日は、というか、今日も私は膝上のタイトスカートを履いていて、座ると自分の太ももが少し見えるのだ。
…そこで私に弾けと?
残念、いくらセンスがよくても今私は仕事中。公私混同はしない主義なのよ、叶純。
私が桐生君に志望動機についての適当なアドバイスをして、「じゃあ今度は自己PRをお願い、」と桐生君を引き続き喋らせれば、不死原君が再びトントンっと人差し指で合図をしてきた。
マセガキ…。
マセガキに動揺させられてどうすんの10個上のBBA!
心の中で自分にそう一喝しつつも、彼の思惑通り、一緒に弾いてしまう私。一喝よりも活を入れた気分だ。
膝より少し上の位置で、桐生君に気付かれないよう、なるべく関節を曲げないように気を付けながら。
連弾というほどでもないけれど、やっぱり"一緒に弾いて"はいる状態。
彼のペースに乗せられてどうする。しどろもどろな私の指に合わせてくる不死原君の指、いいわあと思う私。しっかりしろ息をしろ私。
断らないといけないはずのクリスマスイヴ。
そう、断らないと駄目なのに。。
『真っ赤なお鼻のトナカイさんは
いつもみんなの笑いもの』
ふざけた歌詞が、脳裏に浮かぶ。
そうだ。不死原君が私に本気なわけない。
絶対に。