ゆれて、ふれて、甘言を弄して
こうしてまた不死原君のペースに呑まれる私。
「今度雀荘行きません?あ、うちにも雀卓《ジャンたく》ありますけど。」
これは藪蛇なのか、それとも幸運の女神が微笑んだのか。
「じゃーねー、梨添さん。」
「お礼をいいなさいお礼を。」
顔を見ずに軽く手を振る桐生君。彼は最後まで私にダメ出しさせたいらしい。さっき褒めてくれた"グッとくる"はどこに消えたのか。
「ありがとうございました、りいほさん。」
「っ、ちょっ」
桐生君よりダメ出しが必要なのは不死原君の方だった。
ピアノの先生と生徒という関係は、職場では内緒ということになっている。あまり親密さを出されては、色々な人に目をつけかねられない。
それでも彼は距離を詰めてくる。
『クリスマスイブ、うちで二人麻雀なんてのもありですね。』
桐生君が先にパーテーションから出るのを見計らって、至近距離で囁いてきた彼。
唇の端を少しだけ舐めて、切れ長の目がゆっくりとしなる。
いい。そうやって背伸びした21歳の仄かな色気もいい。あるいは困る。
おばちゃん単細胞だから勘違いするし、勘違いと分かっていながらハマる恋が一番怖いのだよ。
何にせよ、万事休す、だ。