ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「…そういう梨添さんは、結婚とか興味ないんですか?」
「うん。」
「即答ですね。」
「うん。」
バツイチのことは、舘松さんを含めたそれ以上のキャリアセンターの上司と人事の人以外は知らない。
舘松さんにだって別れた理由も言っていない。
採用時の都合上、どうしてもバツイチの事実は上司に知られてしまうことになるけれど、舘松さんは私に、「前の旦那さんはどんな職種に就いていたの?」しか聞いてこなかった。舘松さんは仕事にしか興味がないらしい。
「あっ、風見さんだ!」
げっ…
今休憩室に入ってきたのは、人事の風見さんだ。
「あれ、梨添さんに金本さん。お昼俺も一緒していい?」
「もちろんですぅ。」
金本さんが風見さんに女を振りまいた。とりあえずプラズマクラスター搭載の空気清浄機が欲しい。
「…金本さん、昼めっちゃ少ないね。」
「そうなんです、最近、太っちゃって。」
「でも梨添さんはけっこう食うね。それ唐揚げ6個くらい入ってない?」
私の空になりかけの弁当を見て鼻で笑う風見さん。
ちゃっかり私の隣に座るのやめて。
どこかのマニアック小ネタ劇場のように、彼の座る床にパカッと穴が開いてくれないかな。開けごま。
「まあ、私はダイエットなんて気にするような年じゃないですし。」
「はは、でも俺、もりもり食う女けっこうタイプかも。」
「ええー、そうなんですかぁ風見さん。」
「体力つけるために必要なことでしょ?ねえ梨添さん。」
風見さんは、いつも私にセクハラまがいのことをほのめかしてくる。こんな恰好してるんだから、からかわれて当然なんだけれど。
でも谷間をチラ見せしてる金本さんには言わないよね?
きっとこれが正規の職員と派遣社員、若いと若くないの扱いの差なのだろう。