ゆれて、ふれて、甘言を弄して
こないだのあれはあれだ。失敗だ。完全に不死原叶純の勝利。
脳の片隅にもなかった泰葉が突然出てくるもんだからペースを狂わされただけ。
だから今日は張り切ってクリスマスイヴの誘いを断ろうと思う。
「あっはっは!!タケモトピアノを連弾で引くとこんなにも重厚クラシカルになるんだね?!」
「そもそもがクラシックかもしれないですよ?」
彼に出されていたピアノ教本からの宿題を聞いてもらった後、いつものくだらない癒しの時間が訪れていた。
18時からスタートしたイレギュラーなブラックフライディレッスン。
あっという間に置時計の針が一回り以上の時間を差す。
そろそろお断りの返事をする時間だ。
魔法が解ける前に「ごめんね、クリスマスイヴはおばあちゃんの施設に付き添わないといけないからさ。」を伝えなければならない。
もちろん実際そんな予定はない。
私のおばあちゃんは介護施設に入っているけれど、それはそれは裕福な施設で独り身を有意義に過ごしているのだ。
困った時のおじいちゃんおばあちゃん。
昔高校の同級生だった宮武君は、学校をずる休みするために何度かおじいちゃんおばあちゃんを入院送りにしていたし、今道さんはお葬式だといって何度か殺していた。
不謹慎な話はさておき、帰り際にさらりと言い逃げするチャンスを逃してはならない。