ゆれて、ふれて、甘言を弄して
色素の薄いサラサラヘアに、きちんと感のある襟なしのシャツ。
そしてシャツの袖から流れるライトベージュの手首。男を感じるごつごつとした手の甲に、綺麗な細い指。
その男の見え隠れする指が、こういう今時のアップテンポな曲を演奏すると、一気に大きく開く。
限界まで開こうと必死になって、その姿にふらりふらりとさ迷い中の色気を感じる。ふは。
私がこうして彼の指に見とれている時、彼は必ずといっていいほど、私の方に視線をちら、と這わせる。
でも私はその視線に気付かないふりをする。
私は彼に恋をしているわけではないのだから。
言うなれば、私は不死原君の親指から小指までの間に恋心を抱いている。
その狭くても私の心臓は鷲掴めるほどの距離に。胸じゃないよ心臓だよ。
その指で実際掴まれたら嬉し泣きするだろうというこの感覚は、下心ではない、安心を添えた恋心······推しに限りなく近い恋心だと自負している。
その若者向けの曲調が、次第によく耳慣れた音楽に切り替わっていく。
クラブのDJなんかが音と音の"つなぎ"を意識するみたいに。
「…『恋人たちのクリスマス』。」
私みたいなおばさんでもついていける曲に切り替えてくれたのだろうか?
え?クリスマス?待って、もうそんな時期?
そういえば今日何日だっけ?
なかなか寒くはならないこの季節。クリスマスって何だった?