ゆれて、ふれて、甘言を弄して
私たちもきっと傍から見たら、ミスマッチ、だよね。
21歳と31歳だし。真面目と真面目じゃないだし。学生とバツイチだし。
でも、もしその指に触れられたら、私も不死原君に取り込まれて、ミスマッチがマッチするようになるのかな。
「実は、おばあちゃんの施設に付き添わなきゃいけなくなって…」
頬にかかる髪を、少し顔で払って彼の顔を見る。
ああ、やっぱりな、やっぱり王子スマイルキープだよな。さすが不死原君。断られるのなんて慣れてないだろうけど、私に断られてもチクリとも刺さらないよな。
でも、今目の前にあるのは。
なんだろう。その顔。
余裕しゃくしゃくで、「あ、そうなんですね。ではまた来世のイヴにでもご一緒しましょう。」とか、綺麗な笑顔で社交辞令でも言うのかと思っていたのに。
腑に落ちない顔、でもないな。
まっすぐ私を見つめる不死原君の瞳は揺らいでいるのに、彼の身体は時間が停止したかのように動かない。凍結した?
これって、もしかして、振ったとか、そういうことになるのかな…。
キャリアカウンセラーの本にも上手な断り方なんて書いてなかったから、あたし、わからないや。
「…だから、ごめんね。」
大人は狡いよね。
でもそれ以上に汚いよね。
あたかも「君にピアノを教えてほしい」だなんて気のあることを言っておきながら、1万円というツールで線引きしようとするんだから。
こんな膝の出たタイトスカート履いて、いたいけな男子学生を誘惑しておきながら、踏み込まれそうになった瞬間、突き放そうとするんだから。
ごめんね。綺麗な大人になれなくて。
ごめんね、ごめんねしか言えない大人で。