ゆれて、ふれて、甘言を弄して
不死原君がお盆に乗った発泡酒の缶を取り、フタを気持ちのいい音で開けて私に渡す。
「すみません、第二のビールしかなくて。」
「…全然。私発泡酒が一番好きだし。」
ありがとう、と視線を発泡酒の缶に這わせながら受け取った。
第一のビールは生、第二のビールは発泡酒、第三のビールはビール風味の酒。
私は断然二番派。
女が一番幸せになれるのは一番好きな人と一緒になる、よりも二番目に好きな人と、だ。結婚生活をうまくやってる友達は、皆口をそろえて『二番手最強なり』と言う。
缶についている結露が不死原君の指の跡を残している。自分の喉がコクリとなった。
ちなみに不死原君とのこの麻雀は、賭けだ。
毒で引きずり込まれるわけではないけれど、何かを失う可能性のある賭け。
つまり、私の鼓動は今だいい感じにスピードアップしている。
『東南西北、持ち点25000点で勝負しましょう。勝った方が負けた方に、一つだけ、何でも注文できるってことで。』
『…な、なんでも?』
『例えば、梨添さんのクリスマスを貰う、とか。』
『……いい就職先を紹介するとか?』
『まあ、それも捨てがたいですけど。』
『…じゃ、じゃあもし私が勝ったら?』
『俺のできる範囲なら何でもします。』
自分の発泡酒のふたも開けた彼。
ビールの泡が早く空気に触れたくて、一気に音を上げると、小さなふたの穴からこぼれだす。
指ですくい、指についた泡をちゅっと舐め取って、その指で麻雀牌をじゃらじゃらとかき混ぜる。
ありがとうございます。最高です。
でも先生、それよりも何よりも、勝敗を決めるってのは大変"分かり易い"けれども、むしろ"駆け引き"の何たるかが遠くなった気がするのは気のせいですか?