ゆれて、ふれて、甘言を弄して

麻雀てのは本来四人で行うものなのに、二人でやっているからあっという間に一局が終わっていく。

東南西北、(トン)一局で私が親やって、東二局で不死原君が親やって、次(ナン)一局で私が親やって、南二局で不死原君が親やって。という具合に、計8回の局が行われる。


で、なんだかんだ、こういう時にまで私はいつもの運を発揮してしまい。

"国士無双"も2回ほど叩き出したお陰か、最後の局(オーラス)まで来る間もなく、不死原君の持ち点がマイナスになってしまった。


『うっそー不死原君、負けちゃうじゃん~。わざと負けるとか、逆イカサマじゃないよね?私が困るだろうからやっぱり気を遣ったとか、そういうわけじゃないよね?』

クリスマスの約束を賭けてる手前、これを言うことで、さらに不死原君をたぶらかすことになってしまうのは理解している。



私の勝ちだ。胸が疼くような面白い展開なんてのはティーンズラブの中だけで十分なのだ。

ところで胸が疼くってどんな表現だ。キュンとか言えない私はもう病気に近い。


「ハコった~!梨添さん、強い…!」

「ふふ、30オーバーの力を思い知ったか若者よ。」

「若者なりに思い知りました。たかが20オーバーが王座を狙ってごめんなさい。」

「またいつでも来なさいな挑戦者よ。」


置時計を見れば、すでに21時を回っていた。


麻雀をやっていると時を忘れる。

時をかける少女にでもなれば、もう一度この勝負がやり直せるかもしれないのに、と、どこかで考えている自分を咳払いでかき消した。ごほごほ。




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