ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな。」
「そうですね。」
「…不死原君は今日は、実家に帰るの?」
「いえ、今日はここに泊まっていきます。」
「そう、なんだ。」
「はい。」
麻雀を片付けて、二人分の空き缶を、さりげなく鞄の中に入っていたレジ袋に入れた。
どうせうちにもたくさん発泡酒の空き缶があるし、一緒に捨てればいいやと思って。ってなにいいおばさんぶってるのか。
自分の鼓動はまだ加速途中。
落ち着くわけでもなく、トップスピードを上げるわけでもない。中途半端なじれじれ状態。
うん、これでよかった。クリスマスイヴの約束も断れたし、クリスマスの約束もなくなったわけだし。
それでいて、今まで通りの不死原君との関係性も保つことができたのだから。
何にせよ後の祭り。
玄関まで行って、段差のあるそこに座って、ブーツに足を通す。
今日から一気に冷え込むと天気予報で言っていたから、手袋をつけてロングコートを着てきた。
コートを羽織って、鞄を持って、手袋をつけて。
みんな外に出る準備は万端のはずなのに。私の爪先だけは、一向に外に向く気配がない。
じれ、じれ。
でも今の不死原君は、私が最初にイヴを断った時に見せた寂しげな顔なんてものでも、はたまた王子スマイルでもなく。
発泡酒を飲んだせいか、蕩けるような笑顔で私を見送ろうとしている。