ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「じゃあまた来週。ちゃんと宿題を出した記憶まで戻してきてくださいね。」
「おっけーおっけー。」
クリスマスのなんやらかんやらなんて、何もなかったかのよう。
少しでも寂しげな雰囲気でも匂わせてくれれば、私も後ろ髪引かれる思いで立ち止まることができたのに、ね。
またこうやって汚い大人は、不死原君を理由にすることばかりを考えている。
私たちの差は10というキリのいい数字だけでは片付けられない。
せめて私に、バツがついてなければ良かったのに。
きっと本当の私を知っていたら、こんな風に夜誘われたり、クリスマスに誘われたりすることなんてなかったんだろうな。
むしろピアノレッスンすら断られていたかもしれない。
私がうつむき加減に「おじゃましました。」と伝えると、微かに第二のビールが香った。
「また梨添さんの注文、考えといてください。」
うん。
「何でもリクエスト、受付ますので。」
うん。
て、なにそのラジオDJ風の捨て台詞。
にへら顔で笑う不死原叶純。爽やかと色気のはざまの笑顔。でもちょっとあほっぽくもあって可愛いや。
いつもと違うほろ酔いの姿に、どうにも突っ込みどころ満載でからかいたくなってしまう。
で、奇しくも後ろ髪を引かれてしまった私。
「じゃあ、不死原君にリクエストします。」
「はい、何ですか梨添さん。」
首を傾げる不死原君。
酔いに任せてあざといか。
「不死原君ののど仏を、触らせてください。」
「……え?」
「前から思ってたんだよね。柔らかそうだなあって。」
「…ちょっと、斜め上45度からきたリクエストに戸惑いを隠しきれません。」
「全然戸惑っているようには見えないよ?」
私が笑って見せると、不死原君は一瞬、本当に戸惑っているようかのように俯いた。
でも、すぐに顔を上げて、少し反らし気味になる。