ゆれて、ふれて、甘言を弄して

「じゃあ、触ってみます?」

「うん、触ってみます。」


どうせお互いほろ酔い状態だからと、"のど仏を触りたい"という無秩序=カオスな願いを平然とあげてみた。

指に触れたいって言うよりは健全な気がして。


いつもピアノの椅子に座って、隣でみている不死原君ののど仏が、今目の前にある。

そこにあるボタンを押したくなるような衝動と多分同じで、そこに触れたらどうなるんだろうって思いながらいつも見ていた。

車にも電車にもないのに、バスと不死原君にはある、押したら光って鳴って凹みそうなやつ。



人指し指で、綺麗な肌から出っ張ったそこを、くっと押してみる。


「あ、思ってたよりもずっと固い。」

「……」

「もっとふにゃっとした感触かと思ってたわ。ふは。」

「……」


21歳ののど仏に触れる31歳。抽象絵画よりもずっとシュールな絵ずらだろう。

そう思うと笑えてきて、笑いをこらえながらも知らず知らずのうちに指でなぞっていく。


ちょっと不死原君もなんか言ってよ。沈黙のまま触ってたら、私がただの変態みたいじゃん。


「っ、なしぞえさん、」


私が触っていた人差し指を、横からぱしっと掴んだ不死原君。


「え、なに?くすぐったかった?」


含み笑いを溢しながら、真正面に向けられた彼の顔を見る。


「っ…」


なにか言いたげな、眉をひそめる表情で、頬がいい感じに染まっていた。


きっと、ほろ酔いの着色じゃない。


すぐに"しまった"と思った。"やらかした"と思った。


「あ…、ごめん…、いや、だったよね…。」

「…」


まずい…。怒らせた、かも…。



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