ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「ああ、ありがとう。」
すぐに"閉"ボタンを連打したくなった。
風見《かざみ》さんだ。
でも今日はその隣に、学生課の榎戸さんもいる。
「…こんにちは。」
「…どうも。」
風見さんは無視して、榎戸さんに軽く頭を下げる。
榎戸さんとは内線で何度もやり取りをしている正職員の男性で、風見さんよりも背が高く、体育会系の匂いがぷんぷんする黒髪短髪系。
学生課は、よく就職について相談にくる学生も多い。就職センターという存在を知らない学生に、その存在を案内するのも学生課の仕事。
『今からこういう志望先の何年何学部の学生がそちらに行きます。』と事前連絡してくれるのがこの榎戸さんだ。
だたすれ違ってもホイミ程度の挨拶だけで、仕事以外の口数は、誰かさんや誰かさんと違って少ない方だと思う。
動物に例えると、動物園に住むハシビロコウあたりだろうか。人慣れしているのに鳴かないし動かない。
サービス精神に欠けるとも、そのスポーツマンぽい堂々たる佇まいだけで人目を惹くのが榎戸さん。
そして家具に例えると、こたつの中の柱のような存在の風見さんが、金本さんを一瞥する。
「なんか金本さん、今日雰囲気違くない?」
「えーわかります?!」
「うん。いつもよりあったかそうだよね。」
「あはは。実は背中にカイロ貼ってて~、」
彼女の意味深なタートルネックにも、意味深に攻めていく風見さん。さすが。でも金本さんも負けていない。
こうして第三者目線ならいくらでも見ていられるのに。この男は後ろにいる私にも、さりげなく視線を這わせてくる。