ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「…梨添さん、風見は、悪いやつではないので。」
「えっ?」
「でも、もし何かされたら、俺に言って下さい。あいつとは同期なんで。」
「…はい。あ、ありがとうございます。」
何かされたらって、言われることはあってもされるわけないよね?風見さんは私のことが嫌いなんだし。
それにしてもこんなに喋れる人だったのか榎戸さん。
自らBL要素を匂わせられるほどの男はなかなかの逸材だと思う。でもごめんなさい、私BLには全く興味ありませんので。
金本さんが大教室の鍵を開けると、風見さんがドアの小さな段差も軽々と足を使い、台車を押していく。
こんな風に誰かの何かを手伝っているイメージが全くなかった風見さんを見るのは、ちょっと不思議な感じだ。
私、失礼なこと言ってる?でも風見さんは私に失礼なことしか言っていない。
「で?この資料は何種類あるの?」
「…4、種類です。」
「この山で分かれてるってことね。」
「…はい。」
一番前の席に4種類の資料を分けて置いていく。
自然と、私と風見さん、金本さんと榎戸さんに分かれて準備する羽目になった。
というか、もういいのに。風見さんに手伝われると逆にやりにくいし。
どうせ『事前にホチキス止めしてまとめておけよ』って言われるのがオチなのに。
課長が資料に目を通したのがぎりぎりで、とてもホチキス止めする時間がなかった。
と言い訳したところで、さらに嫌味を被せてくるだけだし。