ゆれて、ふれて、甘言を弄して

「…梨添さん。」


風見さんが手を動かしながら、特にこちらを見ようともせず話しかけてきた。

やっぱな、言われるよなホチキス止めのこと。と身構えていたのに。


「クリスマスの、イヴの日。暇?」

「…うぇ?」


うぇ??

あいうぇ?


「…てか、榎戸とちょっといいワインでも飲みに行こうって話しててさ。」

「……」

「男2人じゃあれだし、梨添さんも、金本さんと一緒に来んかなと思って。」

「……」


はい?


私の手は思わず止まるし震えるし。


思考が停止するってことは、脳からの伝達も滞るってことだから当然声もでないわけで。


でも風見さんの手は手際よく動いている。それはもう滞りなく。


「まあ嫌なら来んくていいし。ほら国際センターの英《はなぶさ》さんとか教務の明日見《あすみ》さん誘うし。あと南校舎の学長室秘書とかさ。」


あああと口も。

むしろ早い。はやいはやい。

手汗があるのか、合間合間にズボンで拭ってからまた作業を始める。指の関節もよく動いてちょっと気持ち悪い。

なんだこの風見さん。壊れかけか。


因みに今名前が出された女性は、皆綺麗どころの若い正職員ばかり。よくもまあそんなスラスラ出てくるもんだ。

私に言い慣れた嫌味も言いつつ、でも手伝ってるし誘ってきてるし。



今までのハラスメントと天秤にかければ、当然重みはハラスメントに傾くのだけれど。

金本さんはどうなのだろう?

金本さんは風見さん狙いだと思うから、ここで私が断れば、金本さんへの誘いもなくなってしまうかもしれない。




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