ゆれて、ふれて、甘言を弄して
私が右端から上体を起こし、手を振って金本さんを呼ぶ。
すると金本さんが小走りできて、私に満面の笑顔を見せた。まぶしい。
「今榎戸さんに、クリスマスイヴ、風見さんと梨添さんも一緒に4人でワインディナー行きませんかって誘われたんです!」
「ああ、」
「私暇なんで行こうと思って。梨添さんも行きません?!」
ちょうど左端でも榎戸さんが金本さんにお誘いをしていたらしい。
これはつまり、計画性のある大人のやり口だ。元々私と金本さんを誘う気でいたのだろう。
やるじゃないか、ハシビロコウにこたつの中の柱。
暇そうな2人だから?簡単にやれそうな2人だから?
いやさすがに、正職員が同じ職場の女性の体裁を奪うつもりで誘いはしないだろう。それこそ、もう一人のハラスメントバスターズ、仕事の鬼である舘松さんの耳に入れば一巻の終わりだ。
私の経歴を知る人事の風見さんが私狙いなわけないし。
風見さんの友達でもある榎戸さんにだって、私がバツイチだということは当然耳に入っているはずだろう。
となると、どちらかが金本さん狙い、というわけか。
「…ごめんなさい。私、おばあちゃんの施設に用事があって。」
「え?そうなんですか?!」
「うん、おじいちゃんが死んで一人ぼっちだから、付き添わないといけなくて。」
風見さんに視線を合わせて、残念そうな顔で伝えてやった。
「だから、若い綺麗どころでも誘って楽しんできて下さいね!」
金本さんが"行く"と返事をしているなら、もう私の出番はない。
不要な誘いはさっさと断るのがいい干物ってもん。
めんどうなことは後回しにせず、さっさと片付けていくのが30歳からの私のスタンス。