ゆれて、ふれて、甘言を弄して

彼のスーツの内側から出てきたネオンカラーの名刺や、休日接待ゴルフの、手がつけられた形跡のないゴルフクラブたち。


証券マンてのは心身ともに相当厳しい職業だと、親からも彼からも教えられてきたため、ある程度は仕方ないのかもしれないと目をつむっていた。


マニュアル通りにしか動けない馬鹿な私は、1汁4菜のご飯を毎日用意していたし、彼のスーツもクリーニングに出し毎日変えていたし。


パートに出てほしくないという彼のためにも、毎日家で掃除をしていたし。



でも人間てのは、言いなりになる人間が現われると、当然調子に乗るもので。


連絡もないまま、23時過ぎまでご飯を用意して待っていたのに、私がいることなんて全く気付かない様子でベッドに直行したり。喋りかければ「うるさい」と言われる始末。


こっちは仕事をしていないから、稼いでくる彼に従うしかないと思っていて、専業主婦って大変なんだと実感した。


夜中に2人で寝ている時、突然彼のスマホに電話がかかってきたことが数回ある。


それを慌てた素振りで隠そうとする彼が、私の機嫌を取ろうと、急に抱きついてきたりして。


馬鹿だった私は、私との関係を壊したくないから機嫌を取ってくれているのだ、と思い込んでいたのだ。



< 67 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop