ゆれて、ふれて、甘言を弄して
たまに互いの実家に顔を出せば、孫はまだかと言われた。
彼が忙しいこともあってか、夜の生活も記憶をさかのぼる程度にしかなく。子作りを初めて2年で、産婦人科には不妊認定をされて。
で、子作りを初めて3年、ようやくコウノトリがやって来たというのに。
子供が出来れば何かが変わると思っていたのに。
人生、そううまくはいかない。
そこで私は、ここぞとばかりに逃げ出したのだ。
『こんなに重い経歴の私に、まだ学生である不死原君が恋なんてするはずない。
君は何も知らないから、だから寄ってきてくれたんでしょ?』
と私が勝手にずっと思い込んでいるだけなのだ。
私が他人の立場になって、梨添りいほを客観視すれば、絶対にあり得ない女だと思っているだけで、不死原叶純という人間からしたらそうじゃないかもしれない。
私が恋なんてめんどくさいと思いたいのも、不死原君が私みたいなのと恋するのは、きっとめんどくさいだろうなという悲観的打算でしかなかった。
ただの『バツイチなの』で不死原君から逃げ出した私は、不死原君を深く傷付けてしまったかもしれない。
会社の志望理由ですら起承転結を求められるというのに。『バツイチなの』だけでは当然人間失格だ。