ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「……ええと、ちょっと予定確認してから返事してもい?」
「…それは、断られてない、って解釈でいいんですか?」
「てか不死原君、私との年齢差、理解してる?」
「はい。俺の高校の同級生は17歳上の女性と結婚しました。」
「え?!じゅ、じゅうななさいっ?!」
「俺たちなんて一回り2歩手前の差ですよ?可愛いもんです。」
「……。」
彼の右手が、また鍵盤へと戻っていく。
踏み込むペダルがリズムを織りなせば、この部屋丸ごとクリスマス一色だ。
あれ?私断るつもりだったのに…。
釣れた魚はでかい!と、どこかで惜しさを噛みしめていたのだろうか。
だめじゃん私。もう結婚どころか恋愛もしないって決めたはずなのに。
それに、私なんかじゃ駄目だよ、不死原君。綺麗な不死原君に、私はあまりにも不相応すぎる。
――――私は、バツイチだ。
色々あって面倒になって全部手放して、離婚した。
年齢差なんかよりも、私はずっとこれに引っかかっているのだ。
私のことを知れば、きっと不死原君は幻滅する。
バツイチなんて今時珍しくはないけれど、離婚した理由を知られるのは、絶対にあってはならない。
不死原君の鍵盤を滑る指が、今度は『クリスマス・イヴ』を奏で始める。
きっと君は来ない~♬ 一人きりのクリスマスイヴ、おおおー♪
だめだ、彼の対応力に涙が出る。
「あはは!」
こんな汚い私を知られるのも怖いし、綺麗な彼を、私で汚したくない。