ゆれて、ふれて、甘言を弄して
金本さんがタートルネックから、いつもの胸元の開いたセーターに衣替えをした頃、やっと昼間から冷え込む季節になった。
3年生たちはインターンやら職場体験で忙しい時期になって、やっと就活から解放された4年生たちは卒論に追われる日々だ。
今日も就職センターは満員御礼で、うるさい定刻過激団員の課長も、企業の挨拶回りや出張が相次いでいないせいか、私も定時に帰れることが少なくなった。
不死原君にメールを送ってから2週間ほど経っていて、私はピアノレッスンを2回さぼっていることになる。
不死原君はあれから就職センターに顔を出していない。
私もおつかいついでに構内を探す、なんてことはしていない。
自分が草食動物じゃなくて本当によかったと思う。視野が広いと簡単に不死原君を見つけてしまいそうだから。
仕事が忙しいのはありがたかった。