ゆれて、ふれて、甘言を弄して
自分のやらかしたミスを片付けるのに手間取った18時。グースダウンの完全防寒で裏門の方へと歩いて行く。
クリスマスもこれくらいの冷え込みになるのだろうか、と、また不死原君に通ずる連想をしていたところ、裏門近くにある喫煙所で、見知った顔に出会った。
「ああ梨添さん、今帰りですか。」
「あ、お疲れ様です村瀬先生!」
文学部で言語文化論を担当している教授の村瀬先生だ。
この寒さだというのに、コートも着ず眼鏡を曇らせながらメンソールを吸っている。
「今日も雀荘?」
「いえ、今日はちゃんと帰りますよ。」
「そう、僕も今日はまだ仕事残ってるから、また会った時はよろしく。」
「こちらこそ。」
彼の授業はほとんど午後にしか行われないせいか、"午後カラ男"と呼ばれている村瀬先生。午後から本領発揮という意味でそう呼ばれている。
前に1度、たまたま隣駅の雀荘で出会ったのがきっかけで、会えば話しをする程度の仲になった。
チリヂリの髪に垂れ目で、いつもどこか眠そうな顔をしている。
世の中に疲れ切った目をメンソールで覚醒させて、眼鏡で誤魔化しているのだそう。もうすぐ40歳を迎えると言っていた。
ちなみに左薬指には指輪の痕がある。