ゆれて、ふれて、甘言を弄して
不死原君がぺこりと軽く頭を下げて、一瞬、私に向かっても、ふいと下げたようにも見えた。いや、村瀬先生にかもしれないし風見さんにかもしれないけれど。
『あれって同じ3年生の柏木ちゃんじゃないですか~?』
小声で、私たちの輪の中だけで話す金本さん。
『もしかして、彼女ぉ??』
金本さんの小声に、すかさず反応したのは意外にも村瀬先生だった。
私よりも早く。
「違うでしょ。あの距離感、そんな風にはみえないよ。」
「でもあの2人が一緒にいると、お似合いでしかないですよね~。」
ふわりとしたペースを保ち、村瀬先生が鼻で笑う。
「若い同士だからね。羨ましいよ。僕ももうあと10歳、いや15歳は若かったらな。」
いい感じに哀愁の引き立て役になっているタバコの煙が吐かれた。「はは。」と、曇っていた眼鏡が晴れていく。
いつも気だるそうな村線先生のレンズの奥には、どこか火の灯る熱い色が見えた気がしたのは気のせいか。
とか、村瀬先生の観察はいいとして、テラスの2人は一体何を話しているのだろう。