ゆれて、ふれて、甘言を弄して
風見さんがコートの内ポケットに手を入れて、電子タバコを取り出す。
「でも村瀬先生ならモテモテでしょ。40でそれだけいい男の教授クラスなら。」
「まだ39だから。ねえ、電子タバコって普通のたばこより旨いの?」
「どうだろ。俺普通のたばこは吸ったことないんで。」
ないのかよ。
吸うならいっそ普通のたばこを吸え、と思う私は決して電子タバコをディスっているわけではなく、風見さん自身をディスっています。
「僕の前の嫁さんも、昔よく電子タバコ吸っててさ。お互い、何が旨いの?ってよく言い合ってたな。」
淡々と、流れるように言った村瀬先生。
「へえー…」
"嫁"に"さん"をつける他人感。
金本さんと風見さんは知っているのか、特に気まずい雰囲気を作るわけでもない。
いや、村瀬先生が自然と気まずくならない言い方をしたのかも。
ただそういうこともあったなあって、タバコを引き合いに、過去の事実がずるりと出てしまっただけなのだろう。
でもここには、その自然を不自然にする達人がいるんですよ、先生。