ゆれて、ふれて、甘言を弄して

「あー…そういえば、梨添さんもバツイチだったよね?」


風見さんが、もくもくと煙を外に吐き出しながら私を横目で見た。でも風の流れで、結局私の目の前に煙がやってくる。


「ええそうですね。」


言ってやった。煙が晴れる前に言ってやった。

くそう、もうどうにでもなればいいよ。


「…へえ、そうなんだ。じゃあ僕といい同盟が結べそうだね。」

「はは、先生ほどいい思い出はないんですけどね。私。」

「僕だってないよ。でもいいネタにはしてる(笑)」

「そうなんですね…。いい関係なんですね。」


馬☆鹿☆野☆郎 風見。


村瀬先生に気を使わせてどうすんだよ。


金本さんは笑顔で私たちのやり取りを聞いていて、気まずいというよりも、私は"ツッコみません"と言い切った顔をしている。

金本さんも知っていたのかもしれない。私がバツイチの事実を。

噂なんてそんなもんだ。自分が思っている以上に広まっていたりする。


でも風見(呼び捨て)がその話題を振ってきたのにはちゃんと理由があって、きっと私がクリスマスイヴを断った倍返しをする気でいたのだと、その2分後に気がついた。




「なんで離婚したの?」


細目のつり目から覗く黒目が、私をとらえる。


「……ええ、と。」

「離婚する方がめんどくない?」

「……ですよね。」

「離婚届出すだけでもめんどそうなのに、苗字の変更もまたしなきゃならないしさ。」

「ほんとに、めんどうでしたね。」

「……」


風見、そっちがだんまりか。


まさかそんなストレートに離婚理由を聞いてくる34歳がいたなんて。世も末か風見。


でも聞かれたのに答えないっていうのは、つまり、私が場を悪くしてしまったということになってしまって。


さっきまで笑顔だった金本さんも、今は気まずそうに俯いてコートを払ったりしているし、タバコを吸っていた村瀬先生は、明らかに吸い込む回数が多くなった。


はい。ここで2分。






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