ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「あれ~?梨添さんじゃん~。梨添さんでも模擬面接とか指導してくれんの?」
「桐生君てめちゃくちゃ私を下に見てるよね。」
「んなことないって~。ただ雑用と夜のエキスパートかなって思ってただけでさー!」
「クソガキ。」
「舘松さ~ん!梨添さんが生徒に暴言吐いてまー」
「しーしー!ウソウソ冗談だって!!」
私はこんな恰好をしているせいか、生徒からはからかわれることが多い。
でもこんなやり取りもけっこう悪くない。若いエナジーに充てられるのは肌にツヤが出るというものだ。
3年生の桐生君とやり合っている間にも、キャリアセンター内の視線が一斉に入り口に集まる。
不死原君が、入ってきたのだ。
どのクソガキとも違う彼は、同級生だけでなく職員の目も奪っていく。
纏う雰囲気が落ち着いているし、何より美しいし。
今だって真っ先に26歳正職員の金本《かなもと》さんが彼に話しかけにいった。
谷間のチラ見せと肉を揺らす能力を発動している金本さん。いつも手札を存分に並べる姿が眩しすぎる。絶賛彼氏募集中らしい。
「…金本さんて可愛いけどガッツいてるよな~。」
「女なんて皆そんなもんでしょ。外に出た時点でミスコンに強制参加させられてるらしいから。」
「でも舘松さんと梨添さんはなんか違うよね~。」
「……」
「梨添さんなんて金本さんにも負けない派手な恰好してるのに、ね。」
それどういう意味?と聞き返すのはやめた。
それよりも今はこのクソガキの模擬面接だ。
就活は人生で初めて挫折を知る機会といってもいい。挫折を沢山経験できるよう、適当でふわっとした模擬面接を伝授してやろうじゃないの。