ゆれて、ふれて、甘言を弄して

親が『しめ縄は神様の物だから必ず買いなさい』と言っていたけれど、その神様の物をなぜお金を出して買わなければならないのか。

神様って万能だからお金は必要ないと思っていたけれど、実は神様も神様という商売をしているのかもしれない。


しめ縄と年明けに投げられるお賽銭と、あとはたまに訪れる祈願や供養代のマージンだけで1年を過ごしているのだとしたらめちゃくちゃ賢い生き方だ。

全部神社の神主さんやしめ縄職人さんたちに任せっきりでゴロゴロしているだけでお金が入ってくるんだから。



って、すでにクリスマスを飛ばしている私は女として死んでいる。


そうだ、生徒たちは皆クリスマスの準備で忙しいのだろう。そうだったそうだった。


この数カ月で色々あったこと、主に不死原君との思い出を無理やり自分の中から抹消するために、こうして頭の中でお正月にワープをして、神々の商売繁盛を切実に願っていた。



「梨添さん、暇だったら倉庫の整理お願いしたいんだけど。」

「あ、はい!」


舘松さんに仕事をふられて嬉しい私。あなたにふられる雑用ならどんな雑用でもやりますよ。


正直なところ、自分が正社員として紡績会社に勤めていた頃は、雑用なんて誰でもできる仕事だと、頭のどこかでバカにしていた部分があった。

でも実際、私が紡績会社から抜けても誰1人とて困らないし、社内はいいように回っていく。

私のスカートの裾にしがみついて鼻水垂らしながら、「お願いだから辞めないで、賃上げするから!」なんて言う人は1人とていなかった。


何が言いたいかというと、雑用であれ主用であれ専門であれ、人は何でもできるのだ。ゴミ拾いでも倉庫に山積みの段ボールの整理でも仕事は仕事。






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