ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「その飴、私にくれるついでとかじゃなくって、本当に梨添さんにだけにしか渡されてないんです。」
「……」
「風見さんて好きな子徹底的にいじめるタイプですよね。」
「ぅげ」
「ドSですよドS。その飴も10円なら尚更です。」
気付かないで欲しかった。
"徹底的にいじめる"ってワード、私には刺激が強すぎるから。気付いても口にしないで欲しかったよ金本さん。
あれだけ私にハラスメントしたお詫びを、たった10円+(税)で清算しようとするというのは、果たして"好き"と云えるのか。
それが金本さんの解釈では一瞬にしてドS変換されるわけだから、その妄想翻訳機能は恐らく自転車操業並みに働いているのだろう。伊達に3連チャンで合コンしていない。
倉庫での整理が一通り片付いてデスクに戻れば、ちょうど甘いものが欲しくなった。
さっき金本さんを介し風見さんにもらったコーラ飴をポケットから取り出すと、外袋に"当たり付"の文字があった。
これって明かりに透かして見れば、中の当たりが見えたりするんだよなあ、と背もたれにもたれて天井の明かりに透かして見る。
小さい黒枠に塗りつぶされた部分。
目を細めて見れば、そこに見えたのは、右から読む『当たり』の文字で。
まさか、わざわざ『当たり』の飴をくれたわけじゃないよなあ、と思ったところで、なんとなく食べるのをやめておいた。
カウンターから私のデスクは一番左手の手前にあって、飴を透かして見ていたのがバレていたらしい。
突然、声をかけられた。