ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「飴、食べないんですか?」
「あっ…、え、と、」
「その飴の製造工場、廃業したって知ってます?」
「え、ええっ?!そうだったの?!」
「だからもし"当たり"なら、かなりレアだと思いますよ?」
カウンターから身を乗り出し、私に話しかけてきたのは、不死原君だった。
「って、よく知ってるねこの飴。昔の駄菓子だよ?」
「昔よく爺さんに買ってもらってましたから。」
「…そうなんだ。10円飴を共有できて、なんか嬉しい。」
「…俺も、です。」
なんでこんな自然に喋りかけてきたのか。
お陰で私も自然と喋れている気がするけど。
「梨添さん。模擬面接、して欲しいんですけど。」
「あ、と、…今舘松さんは桐生君みてるから。金本さん、はいないね。男の正職員でもいい?」
「俺を何だと思ってるんです?」
「せっかく今空いてるから、男の子は女性職員の方がいいかなと思って。」
「あの、…じゃあもういいです。」
「…そ、っか。冬休み中でも予約できるけど。」
「じゃなくて、梨添さんに聞いてもらいたいですけど。」
「え?」
「ちょっと、前の続きってことで。俺の志望動機、もう一度聞いて欲しいんですけど。」
「…派遣だけど?いいの?」
「学生からしたら、正規も派遣も同じにしかみえません。」
「·······」
不死原君て、大人だなあ。
こうして彼に助けられている私は、彼よりも10歳も上だけれど、経験値を貯蓄する通帳のページはずいぶんと前の方だ。今換金するならまさに10円飴+(税)といったところか。
手前のパーテーションは舘松さんと桐生君が使っている。
きちんと謝るいい機会だと思って、一番奥のパーテーションへと不死原君を案内した。