リライト・ザ・ブルー

「裏掲示板の投稿後たった十六分で、写真の載ったブログを書くなんて、誰が聞いたって不自然だと考えるに決まってる。胡桃が載せたんでしょう?」

「は、なにそれ? 言っとくけど、友達が裏掲示板に載ってるって連絡くれたんだから」

「その友達と共謀がないって――口裏合わせをしてないって、どうして言えるの? その友達は胡桃の友達で、胡桃に味方して当たり前なのに」


 うっかり法律用語を口にしそうになってしまった。まるで自分が弁護士として胡桃と話しているかのように。

 胡桃のしたことをまとめると、こうだ。まず裏掲示板に匿名で私と昴夜の写真を投稿し、同じ学校の人達に「三国と桜井が浮気している」と広める。あたかも自分もその噂を耳にしたかのように、ブログでは「裏掲示板に写真があった」と書く。裏掲示板はともかく、胡桃のブログは、胡桃と同じクラスの子達も利用しているサービスなので、必然たくさんの友達に見てもらえる。あとは友達が勝手に噂を広めてくれるという寸法だ。実際、胡桃のブログには胡桃を擁護し、私を非難するコメントが連なっている。


「それに、胡桃はブログで、私と昴夜が土日に会ってたって書いてたけど、裏掲示板には、あの写真がいつのものかなんてどこにも書いてないの。写真を撮った人しか、あれがいつなのかは分からない。……しかも、この角度、昴夜の家の向かい側から撮ったのが丸分かりでしょう?」


 きっと、何も考えずに「浮気の証拠掴んだり」と写真を撮り、裏掲示板とブログに載せ、後になって自分しか撮ることのできない写真だと気付いて、慌てて投稿を下書きに戻したのだろう。裏掲示板の投稿は削除できなかったようだけれど。


「別の犯人を仕立て上げたいのなら、詰めが甘いよ」

「……なにそれ」


 一連の証拠を見せて携帯電話を閉じたとき、胡桃は唇を戦慄(わなな)かせるほど怒っていた。


「逆ギレするなんてサイテー! 大体あたし、そのブログ記事、英凜が可哀想だと思って三十分で削除したのに、なんでそんなの持ってるの!?」

「ねえ、胡桃、気を付けて。ブログについてるコメントにも、全部日時が入ってる――いつブログを非公開処理したかなんて、ログが残ってるの」


 最後のコメントが書かれたのは、九時五十七分――胡桃がブログを公開してから、優に一時間は経過している。

 やはり、胡桃はそうなのだ。どこに何の証拠が残っているかなんて、考えもしない。削除すれば大丈夫、見えないようにすれば大丈夫、そう軽信して、平気で嘘をつく。

 つい、溜息をつきながら、少し長い瞬きをする――十四年後のことを思い出した。
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