リライト・ザ・ブルー
「……侑生」
少し前を歩く侑生に、駆け足で追いついた。侑生は眉間に深いしわを刻んでいる。
「先生に呼ばれてんじゃなかったのかよ」
「……ちょっと、未来のことも関係してたから、侑生に言うのもなって」
「アイツ、未来でもネットで他人の中傷すんの?」
私がタイムリープしているという前提知識があれば、あの会話を聞くだけで充分想像のつくことだろう。とはいえ、弁護士の守秘義務があるので頷くことはできない。……趣旨に鑑みれば、過去にも適用されるはずだし。
ふん、と侑生は鼻を鳴らした。
「やりかねねーな。匿名ならなにやってもバレねーって高括ってる、典型的なクソ野郎だぞ、牧落は」
「……それより、さっき話してたこと」
クリスマスには別れた――侑生は、冷ややかに平然と言ってのけたけれど。
「……ごめんなさい、あんなこと言わせて」
「……別れてたって話?」
「……そう」
「別に、制約さえなければ、夏休みには終わってたことだし。……そうだな、そう考えると」
五組の教室の前まできたとき、扉を開ける前に、侑生は立ち止まった。
「今回の件、俺のせいでもあるな」
「そんなことない!」
思ったより大きい声が出てしまって、自分でもびっくりした。侑生も目を丸くして振り返る。
「……別れられなかったのは俺側の事情だろ」
「確かに試みようとしたのは事実だって話したけど――」
私は“侑生と別れることができればよかった”なんて思っていない。
でも、それを口にしてどうなる。
「……これは、過去でも起こってたことで、そのとき別れなかったのは、私の選択でもあったから」
慌てて言葉を変える。侑生は「そうは言ってたけどな」と肩を竦めただけで、追及してくることはなかった。