リライト・ザ・ブルー
 私達の話し声が聞こえたのか、カラカラと教室の窓が開いて「おかえりー」と昴夜が顔を出した。その頬は、いまは痛々しく赤くなっていた。


「結局胡桃に会いに行ってたの? ごめんねー、うちの幼馴染がヒステリー起こしてて」

「まったくだ。それにしても、ざまーみろだな」

「なにが?」

「お前の顔」

「あのね、これ本当にマジで痛かったからね!」


 頬に手を添え、昴夜はわざとらしく「いたいよう」と呻いた。教室内には、もう誰も残っていなかった。


「……殴ったの、演技じゃ……ないんだよね?」

「いやちょっと殴っとくかって話はしてたんだよ。んでもそんな本気で殴るなんてことになってなかったから。もう絶対侑生に顔殴らせない」

「もう殴る理由もねーだろ」

「分かんないよ、また英凜に手出すかもよ」

「だとして、俺には関係ねーよ。別れたから」

「え?」

「え……」


 呆気にとられた昴夜の前で、私も困惑を向けた。あれは、その場凌ぎの方便じゃないの?

 侑生はしれっと繰り返す。


「別れた、俺達」

「……胡桃になんか言われたの?」

「いや、もともと今日までに別れようって決めてた。でも牧落にはクリスマスってことにしたから、そういうことにしといて」


 昴夜の目が私と侑生を交互に見る。侑生がどういうつもりなのかは分からないけれど、昴夜の前でわざわざ断言するということは、そういうことなのだ。


「だから、お前が英凜に何しようが、俺が怒る権利はもうねーよ。好きにしな」


 次の返事を待たず、侑生は「んじゃ、俺帰るから」とカバンを持って踵を返す。慌てて振り向いて視線で追いかけて、でも待ってと言うより追いかけるべきだと思って、私もカバンを掴んだ。


「……ごめん昴夜」


 昴夜は、居心地の悪そうな顔をしたままだった。


「私、侑生と帰るね。また、来週学校で」

「……ん」


 もしかしたら、ここで待っておけば、昴夜が告白してくれるかもしれない。侑生はそのお膳立てをしてくれたのかもしれない。それを考えることができてもなお、侑生を追いかけずにはいられなかった。
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