リライト・ザ・ブルー
教室を出ると、侑生はもう廊下にいなかった。走って下駄箱まで行って、校舎の外をたらたらと歩く後ろ姿を見つける。
「侑生!」
背中に向けて叫ぶと、ちゃんと立ち止まって振り向いてくれた。
「一緒に帰ろ。……さすがに、こんな終わり方なんてない」
「確かに、牧落との話の流れで終わったってのは一生の汚点だな」
それこそ冗談っぽく答えながら、侑生は笑みを浮かべた。私がその隣に並ぶと、歩き出す。
「でも今日、ホワイトデーだし。ちょうどよかったろ」
「……確かにそう決めたけど、でも、クリスマスに別れてたことにするっていうのは」
「別に、英凜のためじゃない。この噂の後に別れたってなると、噂のせいで別れたんだって言い出す馬鹿がいてもおかしくないからな。余計な面倒事を避けられるならそのほうがいい。その意味で、やっぱり修学旅行で別れとくのが一番良かったんだろうけど、それはあんま考えないようにしてる」
「……対外的にはいくらでも誤魔化せるから?」
「じゃなくて、それって結果論だから」
私にとって今回のことは既知の過去だったけれど、侑生にとってはそうではなかった。だから、私と違って、あの時点で別れるほうがベターであるなど、知り得ないものだ。
「後付けで正しいだの間違ってるだの決めるの、好きじゃないんだよな。結果見りゃ、誰だってどうとでもいえるだろ。だから、修学旅行で別れとけば迷惑かけなかったなって……思わなくはないけど、まああの時点じゃ無理だったんだから仕方ない」
苦笑いを浮かべる侑生の横顔を見ていて、年明けに見ていたような影が落ちていないことに気が付いた。
「それに、昴夜の顔、ぶん殴る口実もできたしな」
「あ、あれやっぱり本気で殴って……!」
「そのくらいいだろ、アイツ、英凜に手出し過ぎだから」
きっと侑生は、去年の枇杷の季節に私がキスされたことも言っているのだと思ったけれど、この侑生はそれを知り得ないのだった。この侑生には気付かれないままで過ごせますように、とこっそり念じた。