リライト・ザ・ブルー
「そう、“両親が結婚する”って未来を変えようとすると主人公が消えちゃうんだよ。だから途中からは両親を良いムードにするために奮闘するんだよね。で、無事に両親がくっついて、主人公も消えずに済んで、未来にも戻れてハッピーエンド」
「昴夜のいう王道っていうのは、現在の自分の存在を否定するような過去の改変が許されないってこと?」
まさしく、いまの私だってそうだ。現在の私の存在の否定とまではいかなくとも、私と昴夜の関係の根本を覆すような改変は許されていない。
しかし、昴夜は「ん、それも含めてなんだけど」と少し首を傾けた。
「あれ、過去の主人公の行動でちょっとだけ未来が変わるじゃん。父親は売れっ子小説家になって家は裕福になってるし、父親をパシッてたヤツは父親のパシリになってるし、あと博士も命が助かるし。だから、過去に戻っても変えられない未来はあるけど、主人公の行動は無駄だったわけじゃないってとこがいいなーって」
「無駄だったわけじゃない、か……」
結局未来が変わらないのなら、過去に存在しないはずの自分がいたところで、それは過去をいたずらに引っ掻き回して終わるだけではないのか。そんな徒労感を否定してくれる結末。
過去に戻ってきた私に、未来を変えることはできていない。過去を引っ掻き回したとまでは思っていないけれど、私が侑生に余計な負担をかけたのは事実だ。
でも、私のタイムトラベルも、まったくの無駄だったわけではないのだろうか。過去よりも、私と侑生は良い別れ方をしただろうか。過去に侑生が昴夜を殴ったことなんてなかったけれど、あのお陰で二人の間には一層蟠りが残らずに済んだだとか、そんな風に変わっているだろうか。今日も、過去にはなかったイベントだけれど、私達の未来の心に繋がるような、楽しい思い出を積み重ねることができただろうか。
電車に乗って、二人で並んで座った。昴夜と並んで座るのは、修学旅行以来かもしれない。
「英凜は、タイムトラベルしたいなーって思う? 映画みたいにさ、変わんないって決まってる未来があっても」
「……思う」
未来を変えられないなら、過去に戻った意味なんてない。最初はそう思っていたのに、いまは頷いてしまった。
「なんで? 変わんないのに?」
「確かに、未来は変わらなくて、過去の事象も必ず同じ結末に収束するんだとしても……」
例えば、あの頃の侑生が私に抱いていた感情は、このタイムリープで変わったものではないのだろう。ただ、私がそれを侑生の口から聞いて初めて知っただけで。