リライト・ザ・ブルー


「たった一つの側面しかない事象なんて存在しないでしょ。見方を変えれば、全く異なる感情を抱くこともある……それは幼かったから気付かなかったことかもしれないし、たまたま見落としたことかもしれない。そういうものをもう一度見つめるだけでも、意味があるんじゃないかな」

「……あのときこうしてたらよかったって、めっちゃくちゃな間違いしてても?」

「高校生なんて、まだまだ子どもだし。大人になっても間違えるんだから、もっとめちゃくちゃに間違えるのは仕方ないよ。それでも、ちゃんと誰かを(おもんぱか)りたかったのは間違いじゃない」


 本当は、まだそこまで割り切れていない。でも侑生に言われたことを反芻して、自分に言い聞かせて、そういうものなのだと思い込みたかった。


「……都合よすぎかな?」


 隣に座る昴夜の顔を見る。至近距離で見つめ返されたけれど、照れ臭くはなかった。

 昴夜が好きだった。高校生活を通じて、本当にずっと大好きだった。どこかおかしいのではないかと気に病んでいた私を救ってくれて、最後まで私を助けてくれた。

 そんな昴夜を、私は助けることができなかった。そのことをずっと後悔していて、私を守ってくれたことを忘れないでいようと、自分に言い聞かせていた。

 そうしていつの間にか、あの頃の恋心は、執着や後悔の入り交じった(おり)に形を変え、私の心にずっと沈んだままでいた。

 でも、もう、そんな風に後悔しなくてもいいのかもしれない。あの頃の私に昴夜を助けることはできなかったけれど、あの頃の私なりに一生懸命だったのだから。

 私を見つめ返す昴夜は、すぐには答えなかった。なにも言わずにじっと私を見つめ、ややあって前を向き、背を座席に預け直しながら「……いんじゃないかな」と口の端を上げた。


「昔のことをあーでもないこーでもないって言うのって、答えが分かってるぶん楽ちんだからね。そういう楽な方向に逃げたって意味ないし。過去を振り返るなら、まああのときの自分なりに必死だったしなって思うくらいにしとかないとね」

「……昴夜は?」

「うん?」

「昴夜は、そうやって、ちゃんと前に進める?」


 未来の昴夜はどうだろう。私のようにタイムリープせずとも、「あの頃は自分なりに必死だった」と納得して、前に進んでいるだろうか。


「んー、どうだろ。半々じゃないかな。……例えば、じいちゃんが死んだ日、俺がもっと早く帰ってたら救急車間に合ったかもしんないなって思うことはあったけど、そんなにだし。……割り切れないことはなくはないけど、時間が経ったら、まあそんなもんかあって思わなくはない。……ん、いや、強がった、わりとうじうじしてるかも」


 それは、この二年間の私のことだろうか。訊くことはできなかったけれど、苦笑いを浮かべる横顔を見ると、そうかもしれないと思った。

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