リライト・ザ・ブルー
夢は、いつまでも覚めなかった。侑生と一緒に夕食を作って「あまりもので適当に作れるあたり、料理に手慣れた大人って感じするな」と笑われて、夏の夜を家まで送ってもらった。十四年前の夏の夜は涼しくて「本当に温暖化って進むんだね」と話した。
「……侑生、抱きしめてもいい?」
家の前まできてもらった後、おもむろにそう口にすると、夢の中の侑生はぱちくりと瞬きした。
「……別にいいけど、英凜が俺を抱きしめんの」
「物理的に難しいかもしれないけど、精神的にはそうしたい」
「……別にいいけど」
ぎゅう、と背中に腕を回して抱き着く。この頃の私達は、二十センチ近く身長が違ったと思う。やっぱり物理的には難しいし、別れて十三年も経っている私は少しだけ恥ずかしかった。
「……元気でね、侑生」
抱きしめたまま、ずっと言いたかったことを口にする。
「高校生のとき、ずっと一緒にいてくれてありがとう。たくさん我儘を言って、傷つけてごめんなさい。もう会えなくても、元気でいて、幸せになってね」
侑生は、返事をしなかった。
家に入ると、お祖母ちゃんがいた。十三年ぶりに会ったお祖母ちゃんに私は泣いてしまって、お祖母ちゃんに心配されてしまって、でも侑生相手に話してしまったように夢の中なんだとは言わずにいた。今度こそ夢から覚めてしまいそうだったから。
寝るときだってそうだった。長い夢だけれど、さすがに寝たら覚めてしまう。メールも当時のものが残っているのだろうかと期待するがままにガラケーを見て、懐かしいメールの数々を読んで。
「8月26日(日)00:02
差出人:雲雀侑生
件名:(無題)
本文:また明日、てか今日」
侑生からの新着メールの意味が分からず、とりあえず「ありがとう」とだけ返信して眠りについた。
目が覚めるとき、私は電車の中にいるのだろう。お祖母ちゃんの十三回忌のために一色市に戻ってお墓参りをして、夕飯までに昴夜の家に行こうとする道中に。でも、こんなに長い夢を見てしまったから、もしかしたら東西線の終点まで行ってしまっているかもしれない――……。
でも、私は夢なんて見ておらず、十四年前の中央駅に着いてからずっと現実を過ごしていた。
「……昨日の英凜、なんかおかしかったから」
そう知ったのは、次の日、うちまで来た侑生に会ったときだった。