リライト・ザ・ブルー
「なんだァ、結構かわいいじゃん」
「待てよ、怪しくね……マジ呼ばれたんじゃねえの」
あまりに落ち着き払っていたからだろう、一人がその目に警戒心を滲《にじ》ませた。そうそう、そのままいなくなってくれればそれでいい――なんて心で唱えていたとき。
ガシャンッと自転車が倒れる音がしたかと思うと、ドゴッと鈍い音と一緒に、私の目の前にあった顔が吹っ飛んだ。
今度は驚きすぎて声を上げる余裕もなかった。グシャッと真夏のコンクリートに叩きつけられた男子が「イッテ……」と呻き、もう一人が振り向く――前に胸座《むなぐら》を掴まれた。
「何やってんの?」
「ごごごごめんなさい! いやなんもしてないです!」
途端に、その子は蛇に睨まれた蛙のごとく諸手を挙げて降参する。百八十度変わった態度の原因を見て、私は唖然とするしかなかった。
奥に残っていた一人が肩で風を切るように「おい、ツレに手出してんじゃねーぞ」と威嚇しながら出てきたのを「バカやめろッ!」胸座を掴まれている子が懇願でもするように止める。
「灰桜高校の桜井さんだよ!」
「わーい、有名人だ」
甲高い無邪気な声だったけれど、それでも彼らの畏縮《いしゅく》は止まらなかった。それどころか悲鳴を上げて「すんませんすんません」「俺らなんもしてないんで!」と脱兎のごとく逃げ出した。地面に転がっていた一人も「ヒィ」なんて叫びながら転がるように逃げ出した。
「なんだよ、俺が絡んだみたいじゃん。絡んでたの向こうじゃんね」
口を尖らせながらその後ろ姿を見送る目は明るい茶色、夕陽に照らされる頭は金髪で、白人の遺伝子のまざった白い肌と彫の深い顔立ち。半袖のティシャツ一枚と緩いズボンを適当に引っ掛けているだけなのにさまになるほど背が高くて足も長いのに、全体的に子どもっぽい雰囲気。
私を覗き込むその目は柔らかく、何も言わなくても、まるで慈《いつく》しむように優しい。
「……どうしたの、英凜。大丈夫?」
十四年前の、桜井昴夜。