リライト・ザ・ブルー



 土曜日、侑生の誕生日をお祝いした。誕生日当日は平日だからゆっくりお祝いできたほうがいいと私が提案していた、らしい。当時の私は一ヶ月以上前から張り切って準備をしていたようだ。

 いまの私はといえば、目の前の侑生が高校生だと思うと彼氏というよりは可愛い弟のように思えて、午前中に映画を見た後はお昼ご飯を作って一緒に食べたし、ケーキはあらかじめ手作りした。


「なんか、急に料理スキル上がったよな」


 口の端についたガトーショコラの切れ端を親指で拭いながら、侑生は首を傾げた。


「まだ真夏のタイムスリップ続いてんの」

「まさか」


 冗談なのか本気なのか分からず、少し心臓が跳ね上がった。


「もとからお祖母ちゃんがいないときにご飯を作ってることはあったし」

「英凜、面倒くさがってカップ麺で済ませるタイプだと思ってたけどな」

「……当たらずとも遠からずだけど」


 三十歳の生活を思い出す。カップ麺は両手と机上が埋まって邪魔だし、お湯を注ぐ必要があるのも三分待たなければならないのも面倒くさかった。だから仕事中の私は黙々とバランス栄養食を(かじ)っていた。箱買いして棚に積み上げられた、しかも同じ味ばかりのそれを見て、先輩がドン引きしながら笑っていた。


「食生活が極端になったのは忙しくなってからだし……」

「忙しく?」

「あ、あの、ほら、急いで出なきゃいけない用事があるときに妥協するのは(やぶさ)かでないって話で」

「……ふーん」


 納得してなさそうな反応のまま、侑生はフォークを置いた。食べ終わってもチョコレートスポンジの欠片がお皿に散乱していないところが、隠しきれない育ちの良さだ。


「……最近の英凜、なんか俺に隠してない」

「え、なんかってなに」

「……なんか。なんか、話してて違和感がある」


 私の高校生活で、誰より長い時間を過ごしたのは侑生だったと思う。一年生のときから付き合っていたし、まだ受験勉強もしない時期だったからデートもよくしていた。だから異変に気付かれるのは当然といえば当然だった。

 そうだとしても、やっぱり、侑生は私のことをよく見ている。
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