リライト・ザ・ブルー
その侑生に、例えばここで、タイムリープのことを暴露したら、どうなるのだろう。私のタイムリープは強制終了するのだろうか。それとも別れるのと同じように暴露することも許されないだろうか。
後者なら何も起こらないだけだからいいけれど、前者だとしたら……。
「……結構前だけど、夏休みの終わりか新学期始まってすぐのときも、何か言いかけてなかった?」
侑生の長い指先が髪を梳き、頬に触れる。中身でいえば十四歳も年下の男の子なのに、触れられると恥ずかしくて仕方がない。
「……言いかけたことはあるんだけど、言えなくて」
「……俺に気遣ってる?」
「そうじゃないよ」
別れようと思っていた――それはやはり、声にはならない。比喩ではなく、声が出ないのだ。
するりと、指が頬から耳の後ろに滑る。その感触がくすぐったくて目を閉じた一瞬の隙に、侑生の顔が近づいていた。
「……ちゃんと言わないと、俺はなんでもやるよ」
付き合いたての頃に言われたことがあった、もし私が侑生を好きでないとしても、付き合っているという外形があればかこつけてキスもその先もするから気を付けろと。
私の好きな人は昴夜だったけれど、ファーストキスは侑生だった。
「それは分かってる。それは、分かってるんだけど……ちょ、っと、ストップ」
ところで、いまは倫理的にも心理的にもキスしていいものなのか? 唐突にその思考に至り、慌てて間に手を挟んだ。
侑生が、少し怪訝そうに瞬きをする。あの頃、私が侑生とのキスを拒んだことがあっただろうか。なかった気がする。
「……話が途中でした。そしてその話は……、やんごとなき事情で言えないという、ことでして」
「やんごとなき事情」
「やんごとなき。不可抗力と言ってもいいです」
私の手に鼻から下を隠されたままの侑生は、視線を動かさなかった。せいぜい、長い睫毛が瞬きのために上下したくらいだ。
「……タイミングの問題?」
「……そうといえばそうかも――ひゃっ」
目が少し伏せられたかと思うと、ぺろりと掌を舐められた。慌てて手を引っ込めようとして、そのまま掴まれソファに転がされてしまった。
「……じゃ、言ってくれるまで気長に待っとく」
手が手のひらを滑り、指が絡まる。
「待って、それは待ってない――」
かぷりと、食むように唇を重ねられた。
十三年ぶりのキスだった。舌を入れるわけではない、でも唇をただ合わせているだけとは言えない濃厚さがあった。
思わず目を瞑ってしまったけれど、逃げるつもりはあった。でも狭いソファの上に逃げ場はなかったし、指を絡めているだけとは思えないほど強く手を拘束されていた。
侑生のキスは、今だから余計に分かるけれど、手慣れていた。そうでなければ、ただ唇に触れるだけのことがこんなに官能的であるはずがない。昴夜を好きでも、侑生とのキスにはそれを忘れさせるだけの熱があった。