リライト・ザ・ブルー
 灰桜高校の文化祭がやってくる前に、私は侑生に誘われて一色(いっしき)(ひがし)高校の文化祭に行くことになった。他校の文化祭なんて行くタイプじゃないのにどうしたのかと思ったら「予備校で同じ女友達がアプローチしてくるのが面倒なのでデートがてら牽制したい」という理由だった。言われてみれば全く同じ理由でその文化祭に行った記憶がある。

 一色東高校の文化祭は、記憶のとおりずいぶんと地味だった。一番派手なのは侑生の頭だ。


「なに笑ってんの」

「部外者の侑生のほうが文化祭の雰囲気出てると思って」

「東高は染髪禁止だからな」

灰高(うち)だって禁止でしょ、形骸化(けいがいか)してるだけで」

「普通科は治外法権の無法地帯だからな」


 東高の文化祭のことは、地味だということ以外あまり覚えていない。侑生としたデートのひとつ以上の記憶はないし、手に取ったパンフレットにも大した催しはない。高校の、しかも公立の文化祭なんてそんなものだろう。


「どこ見る? 私はこれ食べたい」

「そういえば、夏休みが終わってからの違和感。この間言ったこと以外」

「なに、太った?」

「金遣いが荒くなった」

「悪口じゃん、失礼な」


 仕方がない、三十歳と十六歳の金銭感覚が同じはずがないのだから。しかも、侑生のいう金遣いが荒いは、ハンバーガーとチーズバーガーで悩むのをやめただとか、一緒に作るお昼ご飯の材料費を請求しようとしないだとかその程度の話で (なお侑生にはきちんと払われた)、決して豪遊しているわけではない。もちろん、私のお財布事情は高校生に戻っているので直すべき点ではあるかもしれないけれど。


「バイト始めたわけじゃないだろ」

「夏休みにお小遣いがはずまれたから、つい」

「だとしても夏休み前の英凜なら縁日で食い物なんて買わない、多分帰りにコンビニで買ったお菓子つまんでる」

「そういう侑生だって、夏休みの前後でちょっと変わったよ」

「なにが」

「明るくなった。陽菜も言ってたよ」


 どうしてか、侑生は少しバツが悪そうな顔をした。……いや、これは照れているのだろう。

 なお、それを感じ始めたのは新学期すぐではなくて侑生の誕生日からだ。そう考えると、例の“英凜が近い”が原因だろうか?


「私との心的距離が近くなったから?」

「そんなはっきり言うなよ」


 赤くなった顔をぷいと逸らし、私の手を掴む。途端に周囲の視線は侑生の頭ではなく私達の手に集まった。

 耳まで赤い。侑生の半歩後ろを歩く私には、不完全な銀色に染まった髪の隙間から、それがよく見えていた。侑生は大人っぽいとずっと思っていたけれど、こうして見ていると年相応に可愛い。

 ……この可愛いは、昴夜に向ける“可愛い”と何が違うのだろう。

< 35 / 89 >

この作品をシェア

pagetop