リライト・ザ・ブルー
「……悪いって思ってる?」


 キスの合間に、侑生が囁く。


「ん……、悪い、って言うと変だけど、そんな感じ……」


 それはデリカシーがなかったという話だったのだろうけれど、考え事が考え事だったせいで、「好きでもない侑生とキスしていること」と勘違いしてしまった。でも会話は微妙に成立している。


「……じゃ、お詫びちょうだい」


 侑生は私から離れ、ソファの反対側に座り直す。投げ出された長い脚の爪先が、私の爪先に触れていた。


「……お詫び?」

「キス」


 ……キス?

 一瞬理解できずに固まった。

 理解した瞬間には、顔から火が出た。


「……それは」

「イヤならいいけど」

「イヤではなく。……侑生にキスをしたくないという意味ではなく。自ら他人にキスすることが恥ずかしいという意味でして」

「めちゃくちゃ言い訳するな。いいよ、言ってみただけ」


 その手はお菓子をつまみながらDVDの用意をし始める。

 こんな展開、過去にあったっけ。多分あったのだろうけれど、もう覚えていない。あったとして、私は頼まれるがままにキスしたのだろうか。……付き合っている以上はした気がする……、けれど。


「なんか時代感じる映像だな。古いから仕方ないか」


 一体、どうすればいい。混乱している私など知らんぷりで――いや多分気遣って――侑生はテレビ画面に視線を移している。

 あの頃していたとしたら、したほうがいいだろうか。私達の関係は早晩破綻するのだから、してもしなくても変わらないだろうか。

 でも、過去の私なら、間違いなくしていた。

 一人で緊張して考え込んで――文字通り生唾を呑んだ。


「……侑生、目閉じて」

「なに、お詫びくれんの」


 もう始まった映画を前に、侑生が薄く笑みをはく。
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