リライト・ザ・ブルー
 文化祭が終わり、すっかり外も暗くなって、そろそろキャンプファイヤーを始めるという頃になって二人は戻ってきた。教室に残っていたのは過去と違って私だけだった。


「もーやだ、なんで俺達だけ怒られるの」

「頭が悪いから」

「俺の!?」

「ちげーよあのクソジジイのだよ」


 ぐったり疲弊しきって見えたけれど、先生の悪口をいう元気はあるようだ。


「……災難だったね、二人とも」

「ほんとに。お陰でぜーんぜん文化祭楽しんでない」

「お前はシフト時間だったろ」

「説教されてる時間が自由時間だったんですう。あー、更衣室行かなきゃ、めんどくさ」

「三国、着替えてねーの」


 メイド服のままの私を見て、侑生が眉を吊り上げる。


「そんなにお説教長いと思わなくて。いまから着替えてくるね」

「ん」

「あれ、侑生は更衣室行かないの?」

「俺は休憩入る前に荷物持ってきてた」

「ズッルい! 俺の荷物だけ置き去りなの!」


 憤慨しながら昴夜が更衣室へ行く。それと一緒にならないよう、少し間を置いてから、私も更衣室へ行く。

 本当は、着替えておくことはできた。二人がいつ帰ってくるかは分かっていたから、着替えておいたほうがすぐに侑生と帰れるのは分かっていた。

 でも過去では、二人が帰ってきた後に私は着替えに行き、それから侑生の待つ教室へと戻る道中で、帰路につこうとしていた昴夜と遭遇し、保健室で昴夜の怪我の手当てをする。どうせ未来が変わらないなら、都合のいい過去くらいなぞりたい。

 その目論見(もくろみ)どおり、更衣室を出て帰る途中で昴夜に出くわした。


「昴夜、手首怪我してなかった?」

「んー? んー……なんかやや捻った気はする、よく分かったね」


 くい、くい、と昴夜が左手首を軽く動かす。


「見てたら分かるよ。癖になる前に応急処置だけでもしとこう」


 保健室のほうを促すと、昴夜は少し驚いた顔をした。でも、どんなに思わせぶりなことを言ったって伝わらないのが、この世界のルールだ。


「……なんか英凜が優しい」

「普段は優しくないみたい」

「普段も優しいけど、でも侑生が一番じゃん」


 待たせていいの、とその顔は教室のほうを向く。
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