リライト・ザ・ブルー
 続く言葉が出てこなくて、ただ息を呑みこむだけになってしまった。

 侑生は、私をどう考えているのだろう。自分の親友を好きだけれど、告白することも別れることも選択できない彼女のことを、どんなふうに。


「……ごめん、困らせたかったわけじゃないんだ」


 伏せられた目は、私と合わないままだった。


「ただ、どうしてなんだろうって……違和感が残ってたから、それを解消したかっただけなんだ。……そんなに、期待もしてたわけじゃない」


 期待――“もしかしたら自分のことを少しは好きなのかもしれない”“だから別れないのかもしれない”という期待。

 私をどう考えているかなんて、それを聞けば充分――いや、聞かなくたって充分だった。


「……侑生」

「帰ろう、英凜」


 これ以上の会話を拒絶するような言い方だった。


「とりあえず、帰ろう。……もう少し、整理したい。だからごめん、いまは何も話す気になれない」


 机を離れ、ぎゅっと私の手を握りしめる。ただ手を繋いでいるだけのはずなのに、まるで小さい子どもが(すが)ってくるかのようだった。


「もう少ししたら、もっとちゃんと、英凜の感情に向き合うから。だから、もう少しだけ待ってほしい」


 ゆっくりと頷くことしかできない私に、侑生はただ黙って手を引いた。文化祭の片づけもそこそこに散らかった教室内を、侑生が器用に何にもぶつからずに歩く、その足跡をたどるように、私も同じところを歩く。

 少し肌寒くなってきた秋の夜を、私達は手を繋いで、でも無言で、それでもずっと手を繋いだまま歩き続けた。それ以外に、私達を繋ぎ止めるものがないかのように、侑生はずっと、手を離さずにいた。
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