リライト・ザ・ブルー
「てか札幌ってもっと雪の中歩くイメージだった、ちゃんと雪かきしてあるんだな」

「市内だからね。北海道神宮の敷地内はもっと雪道だったと思うよ」

「あれ英凜、札幌来たことあんの?」

「……むかしね」

「へー」


 嘘じゃない。もう十四年も前だけれど、さすがに修学旅行(イベント)となれば記憶も多少はっきりしている。

 後ろでは昴夜達が相変わらず騒いでいるのを聞きながら、私達は神宮へと出発する。

 過去では、侑生の隣は私と陽菜で、昴夜は別の友達と一緒にいた。でも今は違う、私の隣は陽菜だけで、侑生の隣は昴夜だ。

 この相違を作った原因は、おそらく文化祭だ。侑生と私の関係は、文化祭以来、膠着(こうちゃく)状態が続いている。仲が悪いわけではない、喧嘩をしているわけでもない、学校ではいつもどおりだし、帰り道はいつも一緒だ。

 でも、私達の会話はまるで仲良くないクラスメイトのそれだし、侑生はあれ以来、タイムリープのことに触れない。だから私も触れない。私達の関係は、ここ一ヶ月近くどことなく気まずい。

 昴夜はそんな空気に気付いているのだろう。侑生にじゃれるのは、きっと私達への気遣いだ。


「あ、おみくじあるじゃん、おみくじ引こうぜ」

「うん」

「え、英凜、占いは信じないっていつも言ってんじゃん」

「それは星座占いでしょ、おみくじは時の運だから引くよ」

「俺も引くー」


 そのおかげで、毎日はごく普通の平和な日常が続いている。昴夜と侑生がおみくじを引いているなんて過去にはなかったし、むしろ一層平和な日々が続いているといっても過言ではない。私も小銭を取り出し、引き換えにくじの箱を振る。


「あー、あたし吉だ」

「うわ! 凶なんだけど! 侑生なに?」

「中吉」

「交換しよ!」

「そういうシステムじゃなくね」


 あれ、凶じゃない。自分の手の中にある「吉」に目を丸くしてしまった。修学旅行で引いたおみくじは「旅行(たびだち) 北は控えよ」なんて札幌旅行全否定に始まり、なにもかもに対しネガティブな内容が書かれていたのでよく覚えている。でも今回はそうではない。

 旅行(たびだち)・力を抜くと吉、恋愛・気に病むな、争事(あらそい)・助けあり、願望(ねがいごと)・深慮を尽くせ、か……。全体的に悪くない、まあ「吉」とはそういうものだろう。


「英凜、結んで行く?」

「ううん、私はいいや」

「どういうときに結ぶんだっけ?」

「悪いときじゃねーの」

「えーじゃあ俺結ばなきゃ。こういうの空いてるとこなくて困るよね」


 ぼやきながら、でも昴夜は背が高いから比較的空いているところに手を伸ばせる。
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