リライト・ザ・ブルー
「侑生ってもともとすぐキレるし手出すし、俺とか舜が二人がかりで止めなきゃいけないことなんてよくあったのに。もうずっと、人のこと殴ってないんじゃない?」
「そんな侑生を蛮人みたいに……」
「本当だってば。別に侑生が喧嘩吹っ掛けるわけじゃないけど、絡まれたら迷わず殴っとくみたいな。見た目より血の気多いからね、侑生」
どちらかというと昴夜のほうがそう見えるけれど、これぞまさしく偏見というほかない。実際に振り返ってみれば二人とも穏やかといえば穏やかで、でも子どもっぽく憤慨したり怒ったりするところがあった。
「その侑生がさあ、問題起こさないで、英凜と毎日一緒に帰って、そんで誕生日プレゼントに簪選ぶんだもんね。本当に変わったなあ」
「……そうなのかな」
「そうだよ。侑生、英凜のこと大好きだからね」
知っている。侑生の言動のすべてが、雄弁にそう語る。
侑生は、同級生の男子のわりに精神年齢が高く、顔もきれいで頭もよく、でもいわゆるがり勉とは違って女子に慣れていないわけでもなく、胡桃がそうだったように、色んな子の憧れの的だった。
それなのに、侑生には私以外に仲の良い女子はいなかった。陽菜とは多少話すこともあるけれど、それは陽菜が私の親友だからで、あくまで私ありきの関係だった。
まるで私が、世界の中心であるかのように。
立っている乗客がいないのをいいことに、昴夜は長い脚を投げ出し、マフラーに半分顔を埋めたまま息を吐き出した。
「……侑生、寂しがりだからね。侑生のこと、よろしくね」
……昴夜は私を好きなのに、なぜ、そんなことを言うのだろう。
「……よろしくって」
「ほら、俺達誕生日同じだからね。俺は侑生のこと、双子の弟みたいに思ってるから」
「昴夜のほうが弟だと思うけど」
「みんなそう思うだろうからあえての逆張りなんだよ」
「ただ外してるよ、それ」
「そんなことないもん。……俺と侑生って、似てるように見えるけど全然違うんだよ」
昴夜は「さむかった」と足を座席に寄せた。座席の下の暖房の熱は、少し離れるだけであっという間に冷たくなる。
「……二人が似てると思ったことないけど」
「そりゃ、うん、見た目とか性格はね。……俺と侑生が仲良いのって、よく『境遇が近いから』みたいなこと言われてたんだけど」
ああ、それなら分かる。二人ともいつも家にひとりぼっちで、同じ孤独感を共有しているのだろうと、私も思っていた。
「侑生が、ぼそっと言ってたことある。……自分は捨てられた側だから、全然違うって」
そう考える理由が理解でき過ぎて、何を言えばいいのか分からなかった。自分でも気づかないうちに息も止めていたらしく、息を吸い込んだときには、車内の冷たい空気に肺を支配された。