リライト・ザ・ブルー

 その夜、お風呂上りに髪を拭いていると、携帯電話にメールが届いた。確認する前に、陽菜が「英凜、雲雀の部屋行くの?」と洗面所から顔を出し、私の視線もそちらに向く。


「特に約束してないけど」

「もったいねーな! 彼氏がいる修学旅行だぞ! なんでもかんでもやりたい放題!」

「発想が男子だよ」

「雲雀の同室、桜井だろ? 絶対気利かせてくれるし、遊びに行けばいいじゃん」

「んー……」


 過去の私は、これから侑生と二人で過ごす。

 でも例えば、いまから私が昴夜に連絡して一緒に過ごすことは可能なのだろうか。札幌を四人で観光したことといい、ゲレンデで昴夜が外国人に話しかけられたことといい、修学旅行には変化があり過ぎる。侑生とのXデーは、変えられる過去と変えられない過去、どちらに分類されているのか……。


「つかあれ使わないの、雲雀がくれた簪」

「今日はスノボだったから、失くしたら困るでしょ」

「そうじゃなくて、いま挿して行けって話だよ。てかここ使ってもいいよ、あたしも友達の部屋行くし」


 ああそうだ、メールが届いていたんだった。手に持ったままだった携帯電話を開いて――目を見開く。

<差出人:雲雀侑生
 件名:無題
 本文:部屋来ない?>

「ほら! 雲雀もそう言ってんじゃん!」


 勝手に画面を覗き込んだ陽菜が、パンッと肩を叩く。


「んじゃ、あたしも遊びに行ってくるから」

「鍵は?」

「英凜持ってて、あたし帰ってこないかもだし。お前は帰してもらえないかもしれないけどな!」


 本当に発想が男子だな……。<すぐに行く>と返事をした後で、簪のことを思い出す。

 挿していくべきか、いや、どうせ別れるのに、目の前で簪を使っているのを見せるなんてそんな思わせぶりなことをしていいのか?

 悩んだ末に、髪を簪で束ねた。

 部屋に行くと、お風呂上りで浴衣姿の侑生が迎えてくれた。その髪は、普段はワックスで(いか)つく固められているけれど、今はふんわりとして柔らかそうだった。うず、と触りたい欲が芽生えたけれど、三十歳の自分が十七歳の彼氏の頭を撫でるのは犯罪のような気がして堪えた。


「髪、乾かしてねーの」

「長いから面倒くさくて」

「見てるこっちが寒い。乾かそう」


 “乾かして”ではなく“乾かそう”とは? 訝しんでいると、侑生はドライヤーをセットして手招きした。
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