リライト・ザ・ブルー
「侑生は……、侑生は、本当はどうしたいの。クリスマスに三人で遊ぶんじゃなくて、侑生は」
「……俺はそれでいいよ」
「それでいいじゃなくて、侑生は?」
文字通り膝と膝が触れ合う距離で詰め寄るけれど、ああでも、そうだ、侑生が言えるはずなんてないのだ。
改めて姿勢を正し、真正面から侑生の顔を見た。まっすぐに侑生の目を見つめるのは久しぶりだった。きれいに整った顔に張り付いた笑みと、それについていけず、笑えない目。まるで諦めたような暗い影が、その顔には落ちていた。
そんな顔をさせているのは、私だ。心臓が締め付けられる痛みに耐えるために、一度、強く唇を引き結んだ。
「……侑生、私ね」
「英凜、無理しないでいいよ」
溜息を吐きながら、侑生は両手を私の肩に載せる。そのままゆっくり、遠くへ押しやるように、その手に力がこめられた。
「きっと、過去の英凜もそうだったんだろ。俺を傷つけちゃいけない、俺と付き合った以上、自分から別れたいなんて言っちゃいけない、きっとずっとそう自分に言い聞かせて、昴夜への感情を押し殺してたんだろ」
どうして侑生は、そうして私を見透かすことができるのだろう。私でさえ、あのときは分からなかったのに。
「そのせいで昴夜を失ったのに、もう一度同じ悲劇を繰り返すことなんてない。昴夜に告白できないんだとしても、昴夜はそうじゃないはず――俺と別れれば、昴夜の態度は変わるはずだ。そうして、未来を変えればいい」
そうかもしれない。私と違って昴夜には制約がないのだから、そうすれば未来は変わるかもしれない――それだけが、未来を変える唯一の方法なのかもしれない。
「でも、それじゃあ侑生が貧乏くじを引いてるだけでしょう?」
そうだとして、侑生はどうなる? 気持ちに整理をつけたわけではなく、“一ヶ月も経ってしまった”なんて理由で無理矢理別れを決意した侑生は、代わりに深い傷を負うだけなんじゃないか。
そんなことをしてしまったら、それこそ、過去と同じことの繰り返し――それどころか、過去より一層酷い過去を生むだけだ。
「それでも、昴夜を失うより――」
「ねえ侑生、聞いて」
侑生の両腕を掴んで肩からおろし、その両手を両手で握る。私より大きな手だけれど、目の前の侑生は十七歳で、いまの私よりずっと年下だ。
それなのに、未来を知って、私と別れようとしてくれている。たったの十七歳なのに、いわば理不尽に未来を知らされて、私のためにすべてを我慢しようとしてくれている。
「……確かに、私はずっと、昴夜が好きだった。ずっと言えなくて、言わないことで侑生を気遣ってるつもりになってて、ごめんなさい」
「……謝ることじゃない。俺だって気付いてたって、言ったろ」
「それでも、言わなきゃいけなかったのは私。それから、夏休みにこれからの私達がどうなるか話した――私と侑生はホワイトデーに別れて、私は卒業式に昴夜と付き合って、でもすぐに離れ離れになって、侑生も含めて、私達の関係はそれっきりだって。……夢だと思って、余計な話をして、ごめんなさい」
「……別に余計なんかじゃ」
「それなら、そんな変な我慢しないで。私に気遣って、そんなに我慢ばっかりしないでいいよ」
三国と飯食うとき、いっつもそんなのんびり食ってんの――お昼に、荒神くんからかけられた言葉を思い出す。