リライト・ザ・ブルー
……本当に。本当に、侑生は、誰よりも、唯一、私のことが好きだったのだ。
もちろん知っていた。侑生はいつも「好き」を口にしてくれたし、あらゆる言動にその感情は現れていた。侑生を知っている子だって、みんな口を揃えて「英凜にだけは優しい」と言っていた。
それを、あの頃の私は、いまほど理解していたのだろうか。
「……なんで英凜が泣くの?」
あまりにも唐突に、侑生の気持ちを理解できてしまった。それが棘となって胸に刺さり、ぼろぼろと涙が零れる。侑生は困った顔はしなかったけれど、苦笑いを浮かべた。
「夏休みに会ったときもそうだったな。タイムリープの話をするたびに、英凜は泣いてる」
温かい指先が目尻に触れる。涙は止まらず、侑生の手を濡らした。
「本当に、ずっと後悔してたんだな」
「……違う」
「うん?」
「……夏休み、タイムリープして初めて会ったときはそうだったけど、今はそうじゃない」
過去への後悔が消えたわけではない。でも、いまの涙の理由はそれではなかった。
「私、ずっと、分かってなかった。侑生にも言われたことがあったけど、分かってなかったの、侑生がどれだけ私を好きでいてくれたのか」
走馬灯のように、あの頃のことを思い出す。
まだ付き合っていない一年生の夏祭り、暴漢に襲われた私を助けてくれて、落ち着くまでずっと抱きしめてくれた。そんな私を、彼氏でもない男にすがりつくなんてと罵倒した男子に怒ってくれた。付き合い始めた後、昴夜のことで喧嘩になったのに、新庄に捕まった私を、ボロボロになりながら助けてくれた。私はずっと昴夜のことばかりだったのに、ただ自分の片想いだから仕方がないと、一度も私を責めなかった。
昴夜がいなくなった直後もそうだった。自首する昴夜と最後に会ったのは侑生で、いきなり親友を失って侑生だって精神的にどん底だったはずなのに、私のことを気遣ってくれた。
英凜は何も悪くない、だからあんまり泣くなよ――そう言ってくれた。
「ごめんなさい」
あの頃の私は、侑生を、昴夜より好きになることができなかった。それでも侑生は、ずっと私を好きで、誰より大事にしてくれた。侑生は、私にとっていなくてはならない人だった。
私は、それを全然理解できていなかった。
「ごめんなさい、侑生。本当に、ごめんなさい」
わんわんと子どもみたいに泣き始めてしまった私を、侑生はやっぱり責めず、ただ黙って抱きしめてくれた。