リライト・ザ・ブルー
扉のノック音が聞こえたのは、すすり泣きに変わった頃だった。
「ゆーき、いる?」
返事を待たずに入ってきた昴夜は、ベッドの上に座り込んでいる私達を見て――なんなら私が泣いていたことに気付いて、一瞬硬直したように見えた。私は慌てて顔を拭こうとしたけれど、手近なティッシュは既に涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、侑生が新たにティッシュを差し出してくれるのを受け取るしかなかった。
「あ、あの、これは、違うの。その……なんでもなくて」
「いや……うん……いやうん……。……侑生が泣かせた、わけじゃない……?」
どうやら喧嘩をしていたわけではないらしい、というのは伝わったのだろう。居心地悪そうに目を泳がせる昴夜に、激しく首を縦に振った。
「それなら……、いいけど、いやよくないんだけど。……いやでも……うん。……いや、俺がいない間に英凜連れ込んでるとか引くんだけどな!」
おどけた態度は、気まずさを誤魔化そうとしているのがバレバレだった。
「引くって、何にだよ」
「なんか……なんかこう、やらしいじゃん! てか俺を邪魔みたいな目で見ないで!」「邪魔だろ、何言ってんだ」
「あ、そういうこと言う! 親友と彼女どっちが大事なんだよ!」
キャンキャンと子犬が威嚇するような様子で、でも「ちぇっ、俺なんてイルミネーション拒否っただけで胡桃にキレられたのに、なんだよなんだよ」と変な拗ね方をした。
「拒否ったのかよ、行けよ」
「やだよ、別に興味ないし」
「んじゃどうでもいいけど、それはそれとして邪魔だから出て行け」
「あー、そういうこと言うなら出て行きません。ここに座ります、何の話してたの?」
「クリスマスデートの行き先」
「……侑生きらい」
昴夜は本当にベッドに横になり、枕に顔を埋めた。
この状況で昴夜がいると、私にとっても少し邪魔だな……ととんでもないことを考えてしまっていると「てか二人いるなら外に遊びに行こ、夜パフェってヤツ」と昴夜もこれまた厄介な提案をした。今しがた、三人で遊ぶより二人でデートしようと話したばかりなのに。
「……夜の外出は禁止でしょ」
「バレないからセーフ。行こ!」
侑生の顔を見ると「ま、せっかく修学旅行だし」と肩を竦めるだけで拒絶しなかった。これは建前か、それとも本音か……?
「いや……、私は……ほら、先生に見つかるの怖いから」
「俺らが無理矢理連れ出したって言えばいいだろ、行くなら早く行こう」
「侑生、結構乗り気じゃん」
侑生はそれでいいの? 目だけで訊ねると「着替えてきたら」と畳みかけられた。
「……でも」
「英凜、いいから」
とりあえず今は気にしなくていいから。そう言われているような気がして、頷いた。昴夜はベッドの上に転がったまま「あー、カップルのアイコンタクトやだー」と口を尖らせていた。
結局、私達は三人でこっそりホテルを抜け出して、夜の札幌に繰り出した。いまにも崩れそうな絶妙なバランスで組み立てられたパフェに三人ではしゃいで、他愛ない話に笑って、帰路について、これまたこっそりとホテルに戻った。無事、先生に見つかることはなかった。
例のXデーだったはずなのに、私と侑生はもちろん、昴夜とも、喧嘩になることはなかった。