リライト・ザ・ブルー
バレンタインの二日後の週末、侑生の家の最寄り駅を出ると雪が降り始めていた。吸い込んだ空気は、冷たく透き通っていた。
侑生に渡すバレンタインチョコレートは、結局フォンダンショコラに落ち着き、その性質上、休日に作って持って行くと話がついていた。
玄関チャイムを鳴らすと、暖かそうな毛糸のセーターを着た侑生が出てきた。
「はい、バレンタイン」
「昴夜に渡すぶんは?」
……玄関先でバレンタインチョコレートを渡した彼女への第一声がそれとは。でも昨日の帰り道でも「俺に遠慮しないで昴夜にも渡しな」と言われたので、予想の範疇といえばそうだった。
ちなみに、二人ぶんを今朝作ったので、昴夜のぶんは帰り道に持って行くつもりでいた。ただし、さすがに侑生のもとに昴夜宛てのチョコレートを持ってくるほど私もデリカシーがないわけではない。お金がもったいないとは思いつつ、昴夜宛てのチョコレートは駅のロッカーに預けた。
「……それは、まあ、追々」
「アイツもフォンダンショコラ?」
「……あの、私は……、どういう反応を、すればいいのかな……?」
「別に普通に。昴夜と会う時間決めてないなら一回上がれば」
「いや、届けるだけにしようと思ってたし……」
侑生の家でのんびりお茶を飲んで昴夜の家に行くのは気が引けた。でも「宅配じゃねーんだから」と畳みかけられ、リビングにお邪魔した。
私が来る時間にお湯を沸かせてくれていたらしく、侑生はすぐに紅茶を出してくれた。冷え切った体に、じんわりと温かさが染み込む。私の作ったフォンダンショコラは、カップとお揃いの陶器のお皿に載せられ、まるで市販のケーキのようだった。
「……ありがとう、おいしい」
「そっか、よかった」
「大人になってもケーキって作ってんの」
「全然。趣味ってわけじゃなかったし、どっちかいうと食べるものの優先度はかなり下がったし」
「まあもとから低いもんな」
大人になると、相手の食生活を知るほどの関係ではなくなる。そのせいでそのコメントが少しむずがゆかった。
「つか、何時に昴夜の家行くの」
「いやそれは……、決めてないんだけど……」
この季節だ、最悪玄関前に置いても腐ることはない。……もちろん直接渡したいけれど。
「つか、昴夜も英凜に告んないのかな。横から指くわえて眺めてないで力ずくでやればいいと思うけど」
それより、侑生はどんな意図でこの話を振っているのか……? ホワイトデーまでに分かれると決めたことといい、最近の侑生はなにを考えているのだろう。探るようにその顔を観察したけれど、何も読めない。それどころか、私の困惑を読み取ったような目を向けられた。