リライト・ザ・ブルー
「……なんだか、赤裸々に言わせて、ごめん」

「別に、それこそ遅かれ早かれって話だから。……これ、訊こうと思ってたんだけど」

「うん?」

「英凜って、なんで昴夜が好きなの?」


 なにを訊かれているのか、最初は理解できなかった。

 侑生が、私が昴夜を好きな理由を訊いている。受験英語構文でいえば”He is the last person to ask”で説明できる状況だろう。


「なん……、なんで、とは……」

「なんで昴夜なんだろうなってずっと疑問だったから」

「…………」

「素朴な疑問だから、率直に言って。俺が傷つくとかそういうこと考えずに」


 額面通り受け取っていいものか、いつもの無表情からは分からなかった。また紅茶を口に運びながら「ええ……と」と間を持たせるための返事をした。でも私だって、なぜ侑生でなく昴夜なのかなど、分かっていない。


「……なんでと言われると難しいんだけど」

「んじゃどこが好きなの」

「どこ……、どこ……か、かわいい、ところ……?」


 答えながら冷や汗を流してしまった。感情の読めない目が怖い。


「他には?」

「他? ……おバカに見えて頭が良いところとか……優しいところとか……?」

「質問の仕方変えるけど、なんで昴夜のこと好きになったの?」


 つまり私は満足のいく回答をしなかったらしい。仕方がない、「おバカに見える」ところ以外はすべて侑生にもあてはまる。

 しかし、なんでと言われると、今度こそ簡単な質問だ。


「……一年生の夏休みに、三人で、ここで話したこと覚えてる? 私のIQテストの話」

「ああ、この程度じゃ病名はつかないってヤツ」


 やっぱり侑生は、あのテストの意味を正確に理解している。笑って脱力しながら「そう、それ」と頷いた。


「昴夜は、私を正常(ふつう)だって言ってくれたの。病名はつかないんだから正常じゃん、それの何がだめなのって。……あんまり気にしてたつもりはなかったんだけど、私、ずっと自分がおかしいんだって気に病んでたんだって、そのときに気付いた」

「……昴夜に救われた?」


 救われた……。その表現がむずがゆくてすぐには頷けなかった。でもきっとそうに違いない。

< 82 / 119 >

この作品をシェア

pagetop